ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!
第一回『考え方・全体の流れ』
政策支援合同会社 細川甚孝(しげのり)さん
株式会社社会価値’見える化’研究所 石橋宏太
2016年7月9日に政策支援合同会社の細川さんと弊社の合同で開催を予定しておりましたワークショップ『ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!』ですが参加のお申込がなかったため残念ながらキャンセルとさせていただきましたが、一部の方から実は興味があったという個別のご連絡をいただき、その声にお応えするという意味を込めて、政策支援合同会社の細川さん(右記写真左側)の全面的なご協力のもと、当日ご提供する予定でおりましたコンテンツについて本企画を通してご紹介していきたいと思います。
本企画は下記の全5回を予定しており、今回はその第一回目として全体感を掴んでいただくためには政策作成における「考え方・全体の流れ」についてご紹介していきたいと思います。
第一回:考え方・全体の流れ(本記事)
第二回:地域を俯瞰
第三回:地域住民の意識の把握
第四回:施策の達成状況を把握
第五回:施策の優先順位付け
では、早速本題に入りたいところですが、まず我々が何者なのかを紹介させてください。
ご紹介
まず最初に、当日のメイン講師してお話をいただく予定でした政策支援合同会社の細川さんのご紹介です。(写真左側)
秋田県ご出身で高校卒業に合わせ秋田を離れ山梨の大学へご入学。山梨の大学をご卒業後、上智大学の博士号取得のために上京。そこで主に日本の農業制度の研究に携わる。在学中に農林水産省系のシンクタンク(現在は存在しない)の研究員として従事、そこで「地域づくり」「村づくり」の世界に初めて触れ、「知識と体験により農業を3Kの仕事から魅力ある仕事にする」研究などに携わる。その後札幌のコンサルティング会社を経由し松江の土木関連会社の地域開発セクションにて本格的な「街づくり」活動である「中心市街地活性化」、「子育て支援施策」などに携わる。その後、産業能率大学での講師、ネットリサーチ会社などを経て、途中仕事をしながら早稲田大学にて公共経営などを学んだのち政策支援合同会社を立ち上げ、現職に至る。
細川さんの詳しいご経歴についてはこちらの記事にも掲載されておりますので併せてご覧ください。
続きまして社会価値’見える化’研究所の代表者であり本記事の執筆者でもある私、石橋を紹介させていただきます。(写真右側)
埼玉県出身ですが、転勤族の家庭に育ったため日本・海外と複数の都市で幼少時代を過ごす。高校卒業後青山学院大学理工学部に入学し、そこで初めてプログラムに触れる。大学卒業後は大手通信会社に入社し、法人向けのシステム開発、海外でのネットワーク構築、ITコンサルタントなど国内外で多くのITプロジェクトに携わる。その後、世界的なコングロマリット企業に転職し事業企画、経営企画、組織開発を専門とする部門にてLEAN、SixSigma、CAP(Change Acceralation Process:変革推進プログラム)などのフレームワークを学び、全社に伝えていくエバンゲリスト(伝道師)として多くの企業改革に関わる全社横断的プロジェクトをリードし、現職に至る。
*LEAN : もともとは主に製造業における製造プロセスの改善を目的に開発された各種ツール・手法を体系的にまとめてフレームワークだが、現在では金融業やサービス業でも活用され、リーンスタートアップという名称でベンチャー企業の効率的な立ち上げなどに活用が進む包括的なプロセス改善手法
*SixSigma:1980年代に米モトローラが開発した品質管理手法、または経営手法である。その適用範囲は、主に製造業が中心であるが、製造業の製造部門に留まらず、営業部門、企画部門などの間接部門への適用、更にはサービス業などの非製造業への適用も多い。統計分析手法、品質管理手法を体系的に用いて製品製造工程などの各種プロセスの分析を行い、原因の特定やそれへの対策を行って、不良率の引き下げや顧客満足度の向上などをしていく。(ウィキペディアより引用)
*CAP:組織経営における事業計画をハードとするなら組織の共通認識である組織ビジョンや行動規範の策定はソフトといえます。CAPはこの組織経営におけるソフトであるビジョン、行動指針などを効果的に浸透させていく包括的、体系的なフレームワーク
『人口増加都市』とは
次にワークショップ名のタイトルにも入っております「人口増加都市」について簡単に紹介させてください。
『人口増加都市』とは、ミエルカ・ラボ(株式会社社会価値’見える化’研究所)が地域住民の皆様向けに開発したオープンデータ市町村見える化ツールです。地方創生・地域活性化が重要視される中で多くの市町村見える化ツール、たとえばRESASやEvaCvaなど、がありますが、『人口増加都市』もその中の一つです。
上述したような様々なツールがある中で『人口増加都市』は下記の面で他のツールとは異なる特徴を持っております。
(1) 市町村の俯瞰機能を重視
ワンスクロールで市町村に関する幅広いデータ(人口、人口動態、世帯・婚姻、課税対象所得、産業構造、生活環境、行財政状況など)の代表的な指標を見ることができます。
(2) シンプルで直感的な操作性
シンプルで誰でもわかりやすく、直感的に操作することができるため操作マニュアルがなくとも老若男女どなたでも簡単に操作することができます。
(3) ダウンロード機能
表示されているすべてのグラフをダウンロードすることができるため、地域計画の策定時などのインプットに利用することができます。
上記のような特徴から、たとえば幅広い年齢層の方が参加される地域協議会における対話の中で利用したり、地方自治体の新人講習など、様々な立場の方が集まる「場」においてベースとなる地域の状況を短時間で共有する必要があるシーンなどで力を発揮するツールになります。
また、今回のテーマである「政策」という観点で見てみると『人口増加都市』は地域経営を見える化する「ダッシュボード」という捉え方もでき、これから全5回でご紹介していく本コラムの中でその考え方をご紹介して行きたいと思います。
また、「人口増加都市」には2つのツールがありますがその点は次回詳しくご紹介致します。
*「人口増加都市」の詳細についてはこちらからご覧いただけます。
*「人口増加都市ブンセキ」は有償サービスですが、こちらから14日間無償トライアルをお申込いただくことができます。
(14日間無償トライアルは一部機能が制限されております。)
社会的背景と地方自治体のニーズ
今回ご紹介する取り組みについて詳細に入る前に、このような取り組みを行う背景について少しご説明させてください。
みなさんご存知の通り、日本の多くの地域において人口減少・少子高齢化が進んでおり、その結果地方自治体においては税収減が進行する中で今後膨らむことが予想される高齢者福祉のための予算を確保したり、人口減少対策として出生率の向上や 移住促進のための新たな取り組みが求められており、限られた予算の中で何を優先して取り組んでいるのかを戦略的に決定していくことが 求められているのではないかと思います。
このような社会環境およびその環境下における地方自治体への期待を踏まえ、本取り組みでは「人口増加都市」という市町村見える化ツールを一つのインプットとしインプット、アウトプット、アウトカムの明確化により優先順位付けされた実践的かつ効果的な政策を策定する方法についてご紹介していきたいと思います。
基本的な考え方と全体の流れ
上述したとおり、政策作りのポイントは政策に対するインプット・アウトプット・アウトカムを明確にしていくことだと我々は考えており、本取り組みではインプット、アウトプット、アウトカムを抽出するために3つのデータ・資料を活用していきます。
一つ目が「統計データ」、二つ目が「市民意識調査」、三つ目が「施策評価シート」になります。
これら3つのデータ・資料を用い、「地域を俯瞰」「市民意識の把握」「施策の達成状況を把握」「施策の優先順位付け」という4つのステップで政策を作っていきます。
詳しくは右記の図(スマートフォンなどの携帯端末では上記の図)をご参照ください。 *各図をクリックすると拡大することができます。
インプット・アウトプット・アウトカム
右記の図(スマートフォンなどの携帯端末では上記の図)ではインプット・アウトプット・アウトカムの整理を行っています。
今回のケースでは、インプットは社会情勢や政策などの活動であり、アウトプットはインプットの活動の成果としてすぐに見える途中成果指標、アウトカムはその自治体自体が目指す最終成果指標、たとえば「人口増加」、「住民満足度の向上」など、となります。
大切なことは、最終成果指標であるアウトカムに対していつも意識を持つこと、そして、インプットがアウトプットにつながり、アウトプットがアウトカムにしっかりと繋がっていることです。
次に各ステップの概要についてご紹介していきたいと思います。
ステップ①:地域を俯瞰
具体的にこのステップで行うことは、統計データを「アウトカム」と捉え、人口・人口動態・住民所得・産業構造・生活環境・行財政状況などを俯瞰し現在の状況と経年での変化を確認することで最終成果指標の明確化・地域環境の全体感の把握を行うだけでなく、近隣市町村と比較を行い、相対的位置の把握を行います。
恣意的な操作ができない厳然たる事実である統計データを最終成果指標に据え、ステップ②以降でご紹介する各地方自治体により作成された市民意識調査の結果や施策評価シートと合わせて見ていくことでインプット・アウトプット・アウトカムを明確にすることができ、最終目標からずれない、一本筋の通った政策を作成することができます。つまり、統計データは政策作りにおける羅針盤の役割を果たすとも言えると思います。
今回は統計データとして地域環境を俯瞰することを得意とし、直感的な操作性により誰でも簡単に操作することができる市町村見える化ツールである『人口増加都市』を利用しますが具体的な活用方法については次回ご紹介していきたいと思います。(右記の図は「人口増加都市ミエルカ」および「人口増加都市ブンセキ」のスクリーンショットです)
ステップ②:市民意識の把握
このステップでは、頻度と内容は地域ごとにそれぞれですが多くの地方自治体で実施されている市民意識調査の集計結果を利用し、「生活環境への市民意識」および「政策・施策に関する市民意識」を確認していきます。
「生活環境への市民意識」からアウトカムとしての市民の生活環境への満足度を把握し、「政策・施策に関する市民意識」ではインプットとして行政機関が推進している各政策・各施策に対する市民が考える重要度、施策推進に対する満足度を把握することで現状の生活環境および推進されている行政施策に対する住民の意識を確認していきます。市民満足度という質的なものを定量化し、経年での推移を見ることで政策・施策ごとの傾向を見ることができ、政策・施策の方向づけの大きな柱としていきます。
具体的な見方については第三回の「市民意識調査を活用した生活環境、政策に関する意識の把握」の中でご紹介していきたいと思います。
ステップ③:施策の達成状況を把握
このステップでは、基本的にどの地方自治体でも作成している施策評価シートを利用し、実際にどのような施策が推進され、それらの目標値や達成率がどうなっているか見ていきます。
施策評価シートとは地域総合計画を策定時に同時に作成され、施策と政策(保健福祉、まちづくり、産業など)との関連性や施策に紐づく具体的な事業内容が記載されており、いわゆる行政機関における目標管理シートになります。施策評価シートには、その他にも施策ごとの成果指標、目標値が記載されており、それらを目標に各行政活動が行われているということになります。
今回は施策管理シートに記載されている各施策内容およびその目標値をインプットとし、実績値をアウトプットとすることで行政機関での取り組みとぞれぞれの達成度を見ていきます。
具体的な施策評価シートの見方などについては第四回の「施策評価シートを活用した達成率の把握」でご紹介していきたいと思います。
ステップ④:施策の優先順位付け
このステップでは、ステップ①〜③の中から得られたインプット・アウトプット・アウトカムを用い、予算の大方針となる政策・施策の優先順位づけを行っていきます。 具体的には定量化されたインプット・アウトプット・アウトカムの各指標を踏まえ施策の内容的な方向性とコスト面での方向性の両面を明確にしていきます。
また、明確化された施策の方向性を踏まえ、再度地域の状況を統計的に確認するためアウトカムである統計データに戻ることで施策の方向性・重要性を再確認します。
具体的な方法ついては第五回の「施策の優先順位付け」でご紹介していきたいと思います。
今回の記事のポイント
以上、『ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!』の第一回目として考え方、基本的な流れについてご紹介すると同時に二回目以降の概要についてご紹介させていただきましたが、考え方・流れに関するポイントを簡単にまとめると下記のようになると思います。
・統計データ、意識調査、施策評価シートなど一般公開されている誰でも入手可能なオープンデータを用いていること
地域における誰か特定の方ではなく「誰でもできる」、それが一つの大きなポイントだと思います。それが、オープンデータ活用の本来のゴールであり、地域住民主体の地方自治の最初のステップである地域社会への関心の向上のために取るべき最初に手段ではないかと思います。
・「俯瞰」から「詳細」にドリルダウンすることで「結果」と「原因」の関係を見出していくこと
物事には何事にも「原因」と「結果」があり、「結果」をきちんと知り、そこから何かの「気づき」を得ることが行動につながっていきます。今回の取り組みでは、アウトカム→インプット→アウトプットの順で見ていくことで「結果」→「原因」の関係を明確にしていきます。
・アウトカムを最終成果指標として意識し、インプットとアウトプット、アウトプットとアウトカムの関連性を明確にすること
きちんと指標化され、関連づけされたインプット、アウトプット、アウトカムを明確にすることで本当に優先されるべきことは何かを見いだすことができ、より効果的、実践的な政策作成とその実行に繋がっていきます。
最後に
いろいろな立場の方が本記事をご覧になられると思いますが、それぞれのご経験やバックグランドにより本記事に関して感じることが異なってくると思います。しかしながら、自分たちの地域は、そこに住む住民一人一人が作っていくという基本的な考え方に則り、我々はできる限り多くの人にご理解いただき、一人でも多くの方が自分の住む地域に関心を持つと同時にどんな小さなことでも構いませんでの自分の住む地域のための行動を起こすようになることを願い、そのきっかけとなるような情報を皆さんに提供し続けたいと思っております。そんな「思い」からできる限り分かりやすく、見やすい記事を心がけていきたいと思いますので次の回もぜひお楽しみしていただければと思います。
また、同時にご意見、ご感想、ご質問、ワークショップ再開のご要望等なんでも結構ですのでドシドシ、Facebookの「人口増加都市」ページの本記事にアクセスいただき、コメント等いたただければ幸いです。
次回は「地域を俯瞰」と題し、「人口増加都市ミエルカ」、「人口増加都市ブンセキ」を用いてアウトカムとしての地域の現状および中期的な傾向を俯瞰するポイントをご紹介したいと思います。