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第三回『地域住民の意識を把握』
政策支援合同会社 細川甚孝(しげのり)さん
株式会社社会価値’見える化’研究所 石橋宏太

全5回を予定している本企画ですが、前回の「地域を俯瞰」につづき今回は第三回目として「地域住民の意識を把握」についてご紹介していきたいと思います。
第一回・第二回の内容についてご覧になりたい方は下記のリンクから確認することができます。

第一回:考え方・全体の流れ
第二回:地域を俯瞰
第三回:地域住民の意識を把握(本記事)
第四回:施策の達成状況を把握
第五回:施策の優先順位付け


では、早速本題に入りたいところですが、まずは前回のおさらいを含め今回ご紹介することの位置付けを再確認しましょう。

地域住民の意識を把握する目的は?

第一回の中でお話しさせていただいた通り「地域住民の意識を把握」は二番目のステップになります。また、具体的には行政機関が行っている住民意識調査の報告書を用い地域住民の意識を把握するわけですが、そこには大きな目的が二つあると考えています


目的①:インプットとして住民から見た施策の重要度を把握する
政策作成にあたって何を重要視すべきを考えるインプットの一つとして施策に対する住民が考える重要度の把握をすることが重要になります。


目的②:アウトプットとして住民の満足度を把握する
社会情勢などの影響もありますが、過去に実施した施策のアウトプットである住民の生活環境や市政への満足度を把握することは今後の政策作成の方向付けに重要になります。


今回は上記二つの目的を踏まえ、どのようなポイントに注意をしながら意識調査を見ていくかご紹介していきたいと思います。


意識調査について

西東京市は概ね3年毎に意識調査を実施しており平成27年が最新のものになるのですが、今回は統計データとの関連性は分かりやすいように平成24年のものを利用したいと思いますが本記事の中では、その一部を抜粋してご紹介していきますので、もし意識調査全体についてご興味のある方はこちらの西東京市HPの該当ページをご覧ください。

なお、意識調査の設問・集計分析内容は自治体により異なり、また自治体によっては施策と全く紐付いていない形だけの意識調査を行っているところもあり千差万別ですが、その中で今回は施策の優先付けにきちんと紐付く形で集計・分析が行われている西東京市を事例をサンプルとして利用させていただくことにしました。

(1) 調査方法
地域によって異なりますが意識調査は18歳もしくは20歳以上を対象に地域内から人口構成に配慮し抽出された2,000-15,000人程度のサンプルに対して行われているようです。また、私が把握している限り意識調査を実施しているほぼすべての自治体でパソコンなどが苦手な高齢者に配慮し郵送配布・回収で調査を行っているようです。今回活用させていただく西東京市の場合は18歳以上の男女5,000人を抽出し、およそ50%の有効回答数に基づく調査結果になります。

(2) 設問構成
こちらも自治体により千差万別ですが、概ね現在の生活環境と行政機関の取り組み対する満足度を図り、それに加えてその時点での地域特有の課題や行政機関として力を入れている取り組みに対する設問が加わることが多いようです。西東京市も生活環境および行政機関の取り組みについて住民の意識を聞いており、政策を作成していく上で軸となるこの2点について見るべきポイントをご紹介していきたいと思います。

生活環境に対する意識

西東京市の場合は右の図*1のように生活環境に関する17の項目について住民の意識を改善度と重要度の二軸で聞いています。

「改善度」とは、該当する項目に対して10年前と比較して「良くなっている」「やや良くなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」「分からない」の5段階で回答いただき、集計時に「良くなっている」から「悪なっている」の4段階を2,1,-1,-2の数字に置き換え平均値をとった指標になります。

また、「重要度」ですが、同様に該当する項目に対して今後の生活における重要度として「重要」「やや重要」「あまり重要でない」「重要でない」「分からない」の5段階で回答いただき、改善度同様集計時に「重要」から「重要でない」の4段階を2,1,-1,-2の数字に置き換え平均値をとった指標になります。

上記により指標化された各分野の「改善度」「重要度」を降順に表にしたものが右図の右側の表になり、左側のグラフでは各分野の経年での動きを見るため平成19年、平成22年、平成24年の「改善度」および「重要度」の平均を散布図にプロットしています。


*1:出典:「平成24年9月西東京市市民意識調査報告書抜粋 P21-23

(1) 経年の動きに注目!
各分野の平均値に対して平成19年、平成22年、平成24年の値がプロットされ、経年の動きとして矢印が記載されていますが、この矢印の向きが一つ大きなポイントになります。矢印が上を向いているということはその分野は10年前に比べ良くなっていることを示し、下を向いていれば悪くなっていることを示します。
右を向いていれば住民にとって重要が上がっていることを示し、左を向いていれば重要度が下がっていることを示します。
すでにお分かりの方も多いと思いますが、注目すべきは矢印が下向き(悪くなっている)かつ右向き(重要度が増している)方向を向いている分野になります。

ここで具体的な事例として西東京市を見てみると、平成22年(◯)から平成24年(●)の間で矢印が右斜め下を向いているものは「7.緑や水辺などの自然環境」、下向きのものは「9.スポーツに参加する機会、楽しむ機会」、「10.誰もが安心して暮らせる福祉環境」となっており、全体としては非常に良い結果ではないかと思います。
特質すべき点は平成19年から平成22年の間では下方向の矢印が6つでしたが、上記の通り平成22年から平成24年にかけて3つに減少しており、意識調査に沿って優先順付けされた市政が成果にきちんと結びつくことの一つの証明かもしれません。


(2) 4象限におけるプロット位置に注目

次のポイントは、「改善度」「重要度」それぞれの全分野平均により4分割されたエリア(4象限)のどこに各分野の平均値が入っているかを見ることです。
特に注目すべきエリアは、重要度が平均以上で改善度が平均以下の右下のAと書かれているエリアであり、ここは何よりも先に優先して対応すべき「重点改善分野」になります。
次に注力すべきエリアは、重要度が平均以上で改善度が平均以上の右上のCと書かれたエリアになります。基本的に分野毎の重要度は短期間に大きく変わることがないと考えられることから「重点改善分野」と定義される分野の改善が進んでいくとこのエリアに入ってくることが多く、引き続き重要度が平均以上ということで継続した改善が求められる「重点維持分野」になります
残るエリアは、重要度が平均以下のBとDのエリアになりますが、優先されるべきエリアはBの改善度が平均以下のエリアとなり「改善分野」となり、Dのエリアは重要度の低く、改善も進んでいるエリアであるため「維持分野」となります。

以上から優先順位付けを行うと、
A(重点改善分野)→C(重点維持分野)→B(改善分野)→D(維持分野)
と整理することができます。

では具体的な事例を見てみましょう。西東京市の場合平成24年の結果(●)が重点改善分野(A)に入っているものとして「13.子供の教育環境」があり、子供の教育環境に何か課題があることがわかります。
また、上記”(1)経年の動き”で注目した3つの分野「7.緑や水辺などの自然環境」「9.スポーツに参加する機会、楽しむ機会」「10.誰もが安心して暮らせる福祉環境」はそれぞれ「重点維持分野」「維持分野」「維持分野」であることを踏まえると(1)および(2)で注目した4つの分野の優先順位付けは下記の順になります。
優先順位1:「13.子供の教育環境」
優先順位2:「7.緑や水辺などの自然環境」
優先順位3:「9.スポーツに参加する機会、楽しむ機会」「10.誰もが安心して暮らせる福祉環境」

次に地域住民の市政に関する意識を見ていきましょう。


*出典:「平成24年9月西東京市市民意識調査報告書抜粋 P23

市政に対する意識

西東京市の場合は右の図*3のように9つの大項目(それぞれの4-12の小項目を持つ)について市政への「満足度」と「重要度」という二軸で住民意識を聞いています。

「重要度」については前述の「生活環境に関する意識調査」と同じですのでここでは、「満足度」について説明いたします。
「満足度」とは、該当する項目に対する現在の満足度について「満足している」「やや満足している」「やや不満足である」「不満である」「分からない」の5段階で回答いただき、集計時に「満足している」から「不満である」の4段階を2,1,-1,-2の数字に置き換え平均値をとった指標になります。

上記により定量化された各分野の「満足度」「重要度」を降順に表にしたものが右図の右側の表になり、左側のグラフでは各分野の経年での動きを見るため平成19年、平成22年、平成24年の「満足度」および「重要度」の平均を散布図にプロットしています。

(1) 経年の動きおよび4象限におけるプロット位置
「生活環境に対する意識」での進め方同様、ここでも注目すべきは経年の動き(矢印の向き)が下向き(不満である)かつ右向き(重要度が増している)、つまり右斜め下方向を向いている分野になります。

西東京市を見てみると、平成22年(◯)から平成24年(●)の間で矢印が右斜め下方向を向いているものは「産業」「まちづくり」となっており、この二つの分野について深堀が必要であることが見えてきます。

また、4象限の中でのプロット位置からこの二つの中の優先順位は「まちづくり」→「産業」の順であることになります。


*3:出典:「平成24年9月西東京市市民意識調査報告書抜粋 P35-37

(2) 注目分野を深堀

市政に関する意識調査でもっとも優先されるべき分野として「まちづくり」であることが見えてきましたがここでさらに「まちづくり」について深堀していきましょう。

右図*4は「まちづくり」に関する12の分野に対して「満足度」「重要度」を算出し今まで同様グラフと表にプロットしたものになりますが、「まちづくり」の中でも近い将来発生することが予想される大震災に関する備えについて重要度が高く、小さな子供を自転車に乗せて保育園に通うことが多い子育て世代の不満が反映されてか歩行者や自転車の安全性の確保について満足度が低いことが見えてきます。

*4:出典:「平成24年9月西東京市市民意識調査報告書抜粋 P57-58

さらに「生活環境に対する意識」の中で「子供の教育環境」に対する優先順位が高いことが見えていましたので「こども」についても見てみましょう。


右図*5をみていただくと「市立小・中学校の教育の充実」「出産・育児などの子育て支援環境の充実」「地域における子供の居場所作り」について重要度が非常に高いが満足度が低いことが分かり、子育て世代が多い地域のニーズが明確に出ていることが分かります。


*5:出典:「平成24年9月西東京市市民意識調査報告書抜粋 P41

ここで第二回「地域を俯瞰」にて統計データを確認した時に生活スコアにおいて医療環境に特徴があったことを踏まえ、「保健医療」の分野も少し深堀してみましょう。


右図*6をみていただくと明らかに地域医療体制の整備状況に対して重要度が高く、また、満足度も低いことが分かり、統計データから見えてきた結果と符合していることが分かります。


*6:出典:「平成24年9月西東京市市民意識調査報告書抜粋 P47-48

今回の記事のポイント

以上、『ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!』の第三回目として「地域住民の意識を把握」ついてご紹介させていただきましたが、ポイントを簡単にまとめると下記のようになると思います。


・経年推移と4象限の位置で注目するエリアを明確化

現時点での重要度・満足度を把握すると同時に時系列での動きからこれから注目すべきエリアを見出していくことが重要。今回の西東京市のケースで言えば「矢印の向き」と「改善度(満足度)x重要度」で作られた4象限におけるプロット位置ということになります。


・注目した分野を深堀

「地域を俯瞰」のところでも記載しましたが、最初から細かいところを見ていくと全体感が捉えられなくなります。そのため、まずは広く捉え、そこから深堀していくことが重要。今回の西東京市のケースで言えば「まちづくり」から「大規模地震の防災対策」「自転車の利用しやすいまちづくり」に深堀を行いました。


今回は地域住民の生活環境や市政に関する意識を知り、注目すべき分野を把握することを目的に「地域住民の意識を把握」のポイントについて実際の事例を用いながらご紹介していきましたが、次回は今までのことを踏まえ行政サービスのアウトプットの一つである行政施策の達成度の見方、ポイントについてご紹介していきたいと思いますのでご期待ください。


最後に

今回は、意識調査という自治体により設問・集計・分析内容、公開範囲が異なるものをインプットとしているため意識調査の内容によっては今回ご紹介したような進め方ができないかもしれません。
その場合は、意識調査の結果から段階を踏まえ注目すべきエリアを絞り込んでいくことを意識することに努めていただければと思いますが、もし、それでも難しい場合には個別にご相談いただければと思います。

なお、今までいくつかのアンケートの作成・集計・分析に携わってきた経験から意識調査自体にまだまだ改善の余地があると感じており、もっとも懸念する点について下記にまとめてみました。
基本的に行政機関の中で5年毎に作成される地域総合計画に対する根拠付けのために実施される意識調査であるため仕方がない部分はあると思いますが、人口減少や少子高齢化により社会構造が大きく変わり、生き方も多様化する現代社会において現在のように行政機関が作成した施策ありきで住民意識を調査する方法では施策に含まれていないため設問化されない隠れた課題やニーズを見落とす可能性が非常に高いと思います。
そういう意味では、生活環境に対する意識を深堀するような設問や「その他」自由解答欄を追加し、顕在化していないニーズや課題をきちんと拾う仕掛けを意識調査に埋め込んでおくことは今のような時代だからこそ良い一層重要ではないかと思います。
言い方を変えればアンケートを実施することで得られる2つの成果物(一つは自分が持つ質問に対する答えを得ること、もう一つは隠れたニーズ・課題を探る出すこと)のうち一つを捨てることになり、真に地域住民の意識を図っているとは言えないと思います。

自由回答欄をつけると集計・分析などで機械的な処理が難しくなり費やされるリソースが増えることを懸念し嫌がられることが多いですが、経験上自由解答欄をつけても記入する人はおそらく全体の数%であり、仮に5,000人規模のアンケートで複数自由解答欄があったとしても回答数は1000-2000程度です。さらに経験上ですが1000-2000件程度であれば十分に読み込むことができる量ですし、自由解答欄のコメントの中に真の課題、根本原因へのヒントが見つかることが非常に多いです。
ということでここからは意識調査を行っている地方自治体の皆様への御殿案になりますが、自由解答欄をあえて削っている自治体のみなさんはぜひ追加いただき、その自治体の首長さんや課の長のみなさんはぜひしっかりと読み込んでいただきたいと思います。必ず費やしたリソースに見合うリターンを得ることができますよ
また、自由解答欄を増やすことで懸念される住民負担や費用増については、高齢者向けの工夫が必要ですが意識調査自体を電子化したり、自治体同士が連携し意識調査のフォームを標準化しプラットフォームを共有することで相当程度軽減されると思いますよ。
以上、蛇足でした。

最後にいつものお願いですが、ご意見、ご感想、ご質問、ワークショップ再開のご要望等なんでも結構ですのでドシドシ、Facebookの「人口増加都市」ページの本記事にアクセスいただき、コメント等いたただければ幸いです。

次回は「施策の達成状況を把握」と題し、行政機関内での目標管理のために使われている施策評価シートを見ながらインプットとしての行政機関の施策・事業内容を把握すると同時にアウトプットとして施策・事業の達成度の見方やポイントについてご紹介したいと思います。


以上。

なお、個別のお問い合わせ、ご相談は下記までお願いいたします。

ミエルカ・ラボ(株式会社 社会価値’見える化’研究所)
石橋宏太
e-mail:kota.ishibashi@visualization-labo.com
Tel:048-782-7663
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