ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!

最終回『施策の評価と今後の方針決定』
政策支援合同会社 細川甚孝(しげのり)さん
株式会社社会価値’見える化’研究所 石橋宏太

全5回を予定している本企画ですが、よりわかりやすくお伝えするため第四回と第五回を合わせ最終回として「施策の評価と今後の方針決定」についてご紹介していきたいと思います。
これまでの内容についてご覧になりたい方は下記のリンクから確認することができます。

第一回:考え方・全体の流れ
第二回:地域を俯瞰
第三回:地域住民の意識の把握
最終回:施策の評価と今後の方針決定(本記事)


では、まずはいつものように前回のおさらいを含め今回ご紹介することの位置付けを再確認しましょう。


施策の評価と今後の方針決定とは?

第二回の「地域を俯瞰」においては社会情勢や行政施策のアウトカムとして統計データを見て来ました。
また、第三回の「地域住民の意識を把握」では文字通り地域にお住いの方々の生活環境や市政に対する意識を見て来ましたが、今回行政機関において具体的にどのような施策を実施し、それぞれについてどのような成果が出ているのか、さらにこれまでに見てきたアウトカムやアウトプットを踏まえ、最終的に政策や予算の大方針に繋がる施策の今後のあり方について「施策評価シート」を利用して決定していくプロセスをご紹介していきたいと思います。
具体的には下記の2点についてご紹介していきたいと思います。


①:インプットとしての具体的な施策とアウトプットとしてのその結果
現在の地域の状況に働きかける要素には大きく社会情勢と行政の施策はあるというお話を第一回で差し上げましたが、今回は第二回「地域を俯瞰」や第三回「地域住民の意識の把握」の中で注目してきた分野に対して行政における具体的な施策およびその成果について見てきます。


②:施策の今後の方針決定
第三回「地域住民の意識を把握」にて見てきた住民の満足度および上記①の施策の成果や課題から最終的に政策の大方針の元となる各施策の今後の方針を決定していくプロセスとご紹介していきます。


それでは、上記二点についてどのようなポイントに注意をしながら見ていくかご紹介していきたいと思います。


「施策評価シート」とは

「施策評価シート」とは文字通り地方自治体で行われている各種施策や事業について評価するときに用いているものをさしますが、簡単にいえば自治体にて行われている各種施策の成績表になり、このシート上で施策に紐づく具体的な事業内容やその成果・課題・今後の方針についてまとめています。
右図(スマートフォンでは上図)*1は平成24年度の西東京市の施策評価シートですが、「施策概要・成果」「評価結果」「事業ごとの施策への貢献度」という3つの要素から構成されていることがわかります。なお、西東京市の「施策評価シート」の全体像をご覧になりたい方はこちらの西東京市HPをご覧ください。

今回は、前回の意識調査にてもっとも注目すべき分野であった「まちづくり」の中でも重要度が高かった「大規模地震の防災対策」に関する施策評価シートを見ていきたいと思います。

施策概要・成果

西東京市の施策評価シートの場合は右図(スマートフォンでは上図)*1のように「①施策の概要」「②施策の成果」および「③市民意見」という3つの要素から構成されており、本施策に紐付いて実施された事業毎に目標値とその達成度が経年で掲載しています。
それでは、実際の事例を見ていきましょう。

見るべきポイントは関連する事業内容および事業毎の「目標値」「実績値」「達成率」の3つですが、この事例では、ほぼすべての事業において実績値が目標を下回っており、達成率が100%に達していないことがわかります。
また、􏱀􏸒􏻔􏳓􏻆􏰟􏱤􏳾􏻬􏻉􏳻􏰫􏺍􏺎􏶔􏰕􏱀􏸒􏻔􏳓􏻆􏰟􏱤􏳾􏻬􏻉􏳻􏰫􏺍􏺎􏶔􏰕「大規模地震、集中豪雨等の防災対策」に対する満足度は前年より下がっており、防災対策そのものに対する見直しを示唆することがわかります。


評価結果

次に右図(スマートフォンでは上図)*1の「評価」の部分を見ていきましょう。

大きく分けると「一次評価(①〜③」と「行革本部評価④」という2つの要素から構成され、前者は施策を主に担当する主管課長と副次的に担当する関係課長が協議して行う評価であり、後者は市長等経営層から構成される会議により決定された最終評価になります。
(1)一次評価
一次評価では以下の2つの視点を踏まえ施策自体の「方向性(拡充・現状維持・絞り込み)」と「コストの方向性(重点化・現状維持・効率化)」を総合評価として決定していきます。

①目標達成度x満足度
施策の目標達成度と意識調査の満足度を見ていくことで現在実施している施策の妥当性を見ることができます。施策の目標達成率が高くにも関わらず意識調査の満足度が低ければ施策自体の見直しが迫られることになりますし、逆に達成率が低いにも関わらず満足度が高ければ目標の見直しなどが必要と考えられ、いずにれせよ現在進められている施策の課題を浮き彫りにし、今後どうすべきかの指針を与える一つの要素になります。
今回の施策「災害に強いまちづくり」では、目標達成度は「ほぼ達成」、満足度は「平均を下回り」となっています。

②現在の重要度およびその経年変化
限られた財源の中で何を優先していくかを考える上で地域住民が考える重要度は非常に重要になります。また、現在の重要度が仮に高いとしても経年で見ていくと重要度が下降傾向にある場合には優先順位付けにおいて考慮していかなければなりません。上記が施策内容の課題を見ているのに対してここでは施策そのもののGo/NOT Goを見ていると言ってもいいかもしれません。
今回の施策「災害に強いまちづくり」では、重要度の変化は「強くなっている」、現在の重要度は「平均を上回っている」となっています。

③総合評価
上記の①および②を踏まえ施策自体の「方向性(拡充・現状維持・絞り込み)」と「コストの方向性(重点化・現状維持・効率化)」を決定していきます。
今回の施策「災害に強いまちづくり」では、非常に重要度が高く、満足度も平均以下であるため施策そのものの方向性、コストの方向性共にもっと優先されるべき「拡充」「重点化」となっており、「コストをかけても成果を向上すべき施策療育」に指定されています。

次に行政機関としての最終決定である「行革本部評価」について見ていきましょう。

(2)行革本部評価
一次評価の結果を踏まえ、市全体の戦略などを踏まえ施策の今後の方針について最終決定していきます。
今回の施策「災害に強いまちづくり」については、また記憶に新しい東日本大震災の被害状況やそもそも生命に関わることでもあること、さらに意識調査ではもっとも重要度が高いもののに一つであったことなどから一次評価の結果がそのまま最終評価となっています。


*1:出典:「平成24年度評価(施策評価)案2-1 災害に強いまちづくり

今回の記事のポイントおよびこれまでのまとめ

以上、『ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!』の最終回として「施策の評価と今後の方針決定」ついてご紹介させていただきましたが、まずは今回のポイントを簡単にまとめたいと思います。


・施策自体のGo/NOT Goと施策の妥当性

たくさんある施策に対して優先順位付けを行うためには定量化し順番付けするということは妥当な方法ですが、それだけでは、施策内容を改善すれば効果が上がるものなどを見い出すことはできません。それまでの取り組みの積み重ねを有効活用する上でも施策自体の妥当性もしっかり見ていくことが重要になります。


・施策そのものの今後の方向性とコストの方向性を決定する

最終的に政策を作ることが目的ですが、政策の一つの側面が施策であるとするともう一つの側面は予算になります。施策の集合体である政策を決定していく上で当たり前のようですが施策自体の方向性を決定するときに同時にその予算についてもしっかり方向付けすることが重要になります。


また、全体としてお伝えしたいポイントはインプット・アウトプット・アウトカムがしっかり紐付いた意思決定のメカニズムを構築することがとても重要であるということです。
何事も「結果」にはそれを生み出す「原因」があり、その「原因」をインプットとしてきちんと整理し、「結果」であるアウトプットやアウトカムに紐付けていくことで効率的かつ効果的な政策が作れるのではないでしょうか。さらにそれをシステム化し組織の中に埋め込むことで行政機関全体として質の高い施策の策定と評価が行うことができるようになります。
特に重要な点は意識調査と施策をしっかりと紐づけることであり、紐づけることができるようきちんと意識調査を設計することが重要となります。


最後に

以上、全4回に渡り「ウェブサービス「人口増加都市」を使って、実際の政策を作ってみよう!」をお届けしてきましたがいかがだったでしょうか。
もともとは「ワークショップ」として行う予定だった内容を文章にまとめてみなさんにお伝えしてきましたが、初めての試みでもありワークショップであれば参加される方々の反応を見ながら柔軟に進められることも文章ではいろいろな立場の方の反応を想像しながら、同時に簡潔に分かりやすく伝えていかなければならず思った以上に時間がかかってしまい申し訳ありませんでした。


人に教えるためには自分自身が知る以上に理解しなければならないと言いますが、本記事は私にとってまさにその機会となりとてもいい勉強になりました。みなさんにとっても何か伝わるものがあれば幸いです。
そして、この場をお借りし本記事の作成に対して多大なご協力をいただきました政策支援合同会社の細川さんに御礼申し上げたいと思います。
ありがとうございました。

最後にいつものお願いですが、ご意見、ご感想、ご質問、ワークショップのご要望等なんでも結構ですのでドシドシ、Facebookの「人口増加都市」ページの本記事にアクセスいただき、コメント等いたただければ幸いです。


以上。

なお、個別のお問い合わせ、ご相談は下記までお願いいたします。

ミエルカ・ラボ(株式会社 社会価値’見える化’研究所)
石橋宏太
e-mail:kota.ishibashi@visualization-labo.com
Tel:048-782-7663
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